量子情報科学とは
量子力学は、ミクロな物理の世界を記述するもっとも基本的な枠組みです。このような量子力学は、これまで半導体、レーザー、NMR(核磁気共鳴)などといった現代に欠かせないテクノロジーを影から支えています。
21世紀に入り、量子系の制御技術が成熟し、量子力学の不思議な現象を直接制御し観測できるようになってきました。これを背景に、量子力学に情報科学的なアプローチを導入し、より緻密に量子力学の世界を理解し、その理解に基づいて量子力学における不思議な現象を情報処理へと応用する分野が量子情報科学です。
藤井研究室の研究分野
藤井研究室では、量子情報に関係する基礎から応用に至る幅広い理論研究をすすめています。特に、量子力学を原理として計算を行う量子コンピュータに関する研究を進めています。特に、大規模な量子コンピュータの実現に不可欠であるノイズを克服するための方法、量子誤り訂正と誤り耐性量子コンピュータの研究、及び近未来的に実現する小・中規模の量子コンピュータ、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum computer)の量子化学計算や量子機械学習などへの応用研究をすすめています。基礎物理、計算機科学、プログラミング、機械学習など幅広い分野の知識に基づいて学際的な研究をすすめています。
これから量子コンピュータについて勉強したい学生さんへ
以下に、学習の参考になる情報を紹介します。
- 藤井がなぜ量子コンピュータに興味をもったか、率直に書いていただいています:「量子コンピューターは物理法則で許された最強のコンピューターである!」ASCIIロングインタビュー
- 高校生や高専生、その他とりあえず量子力学や量子コンピュータを数式を使わずに知りたい人、物理やコンピュータの発展の歴史のなかで量子コンピュータのこれまでの歩みや未来像についてざっくりと知りたい人:
「驚異の量子コンピュータ:宇宙最強マシンへの挑戦」 藤井啓祐著(岩波科学ライブラリ) - これからガッツリ量子情報の勉強を始めたいと思っている大学生(高専生):
Quantum Computation and Quantum Information by Michael A. Nielsen and Isaac L. Chuan
線形代数からきっちりと説明されているので、この本だけで学習をすすめることができます。英語も読みやすいので、英語で知識を吸収することもできます。 - 量子情報を勉強するにあたって量子力学を復習したい大学生:
「新版 量子論の基礎」清水明著(サイエンス社) - 手を動かしながら量子コンピュータについて学ぶ:Quantum Native Dojo
藤井研での研究の流れ
量子情報の研究をするためには、線形代数と量子力学の知識が必須です。学部授業でしっかりこの2つの科目は習得している必要があります。また、量子情報に関する基礎知識も必要です。研究室配属された4年生は英語で知識を吸収すること、量子情報の基礎知識を習得することを目的に、みっちり上記の教科書Quantum Computation and Quantum Informationを輪講します。修士から藤井研に参加する学生さんで量子情報の基礎知識や英語で書かれた教科書に慣れていない学生さんにも参加してもらいます。
基礎知識と英語で書かれた科学的な文章の読解力が身についたところで研究テーマを決め、それぞれの研究をすすめていくことになります。理論研究では、教員との相談やディスカッションのもと各学生自身が主体的に自分のテーマについて先行研究についての理解をすすめ、新しいアイデアを考えることになります。
量子情報分野は、情報と物理との融合領域です。基礎物理、情報科学、プログラミング、機械学習などなにか自分の得意分野があれば、それと関連する研究テーマが必ず見つかります。藤井研では、このような得意分野を伸ばせるような指導を心がけています。また、量子コンピュータは現在、アカデミアだけではなく、Google、IBM、Microsoft、Intelといった巨大IT企業や、スタートアップ企業など産業界でも研究開発が活発に行われています。日本においても、量子技術に興味をもつ企業が増えてきており、藤井研でも多くの企業と共同研究をすすめています。量子コンピュータは、アカデミアにおける基礎研究と産業応用の距離が近い、科学技術においても非常に稀な分野だと思います。藤井自身が創業に関わった量子コンピュータのソフトウェア研究開発を行うQunaSys(キュナシス)とも共同研究をし、量子コンピュータの社会実装にむけた応用研究もすすめています。
藤井研では、物理学(目の前の現象の本質を捉え、モデル化しそこから普遍的な知識を得る)、情報科学(数理的な基礎、プログラミング技術、機械学習、アルゴリズム)をバランスよく身につけ、問題を自ら設定しそれに対して自ら適切なアプローチの筋道をたてて解決することができる能力を身につけれるように指導をしています。これらのスキルを身につけた人は、アカデミアにおける基礎研究だけではなく、社会においても活躍できると期待しています。